西川敦子『大人のためのシェアハウス案内』レビュ-

フリージャーナリスト、西川敦子さんの本『大人のためのシェアハウス案内』。女性ユーザーの視点でシェアハウスの魅力や付き合い方について紹介している。取材している物件も有名どころが多いので、この本に出てくる事例を調べれば当時の代表的シェアハウスを網羅できる。

ただし大手が手掛ける大規模物件はどうしても画一的でおもしろみがなくなってしまうのか、『シェアハウス図鑑』と同じく小規模物件の取材が多い。ハチセの京だんらん東福寺、大関商品研究所のバウハウスシリーズ、株式会社ナウいのIGHシェアハウスなど、いずれも10名以下のこじんまりしたスケールだ。

ユニークではあるが、デザインセンス的にはどうかというものもある。アトリエ系の建築家が強いて言及しないような物件を取り上げているという意味でも、価値のある体験記といえる。日本女子大のシェアハウス研究レポートのように、アカデミックすぎないのが売りである。

また、個々の物件に加えてシェアハウス検索のポータルサイトも紹介されている。業界内では「ひつじ不動産」が有名だが、その他にも「コリッシュ、シェアシェア、ゲストハウスバンク、シェアパレード」など知らないサイトが多く存在したようだ。いずれも2019年10月現在サービスを継続している。

ルームシェアかシェアハウスか

本書で触れられている「物件の選び方や暮らし方」という面については、その半分くらいが昔からあるルームシェアの話だった。

海外では単身者向けの賃貸物件が少ないので、ルームシェアの方が圧倒的に多い。しかしワンルームのアパートやマンションが発展した日本では、たいして賃料が変わらないのにわざわざ他人と一緒に住む利点を感じられない。

この本を読んで、ルームシェアは経済的メリットがあってもドミトリーと一緒か、それ以上に不便な制度だと感じた。特に間借り人が出て行ってしまうと、賃料は残った人が全額負担しないといけないリスクがある。

自分にとっては「個室があり、共用部だけシェアする住み方」の方が合っていると思った。キッチン・トイレ・シャワーなど水回りを人と共有することに抵抗はないが、やはり心休める場所として個室は欲しい。

本書に掲載されている「あなたにふさわしいシェアライフ」という感じの分類チャートは、こうした自分のこだわりを確認するうえでも役に立つ。

コレクティブハウス「かんかんの森」

一概にシェアハウスといっても、公共スペースの配置や運営ルールによって、住人同士の関わり方が微妙に異なってくる。

本書の紹介事例のうち、一例として建築系の本でもたいてい出てくる「かんかん森」(2003年~)を取り上げてみたい。正確にはコレクティブハウスと呼ぶべき物件で、若年層の単身者が集まるシェアハウスとは若干異なるシステムで運営されている。

ここは当番制で食事をつくり全員で食べる、「コモンミール」という行事で有名だ。子どもからシニアまで様々な年齢層の人たちが一緒に暮らす、多世代型共同住宅の先進事例でもある。

北欧から発祥したコレクティブハウスは、国内で普及しているシェアハウスより住人同士のコミュニケーション密度が高いように感じる。食事や掃除が当番制とすれば、大学の学生寮に近い。

コーポラティブハウスと並んで建築業界では古くから知られた共同住宅のスタイルだったが、両者の名前がまぎらわしいのと呼びにくいのとで、代わりに「シェアハウス」という呼称が普及したのではなかろうか。

群馬県公社が事業主の「元総社コモンズ」

「かんかんの森」を立ち上げたのは、NPO法人のコレクティブハウジング社である。

しかし建築を借り上げているのは居住者有志が立ち上げた、その名も「株式会社コレクティブハウス」であるようだ。さらに管理・運営は居住者組合が行っているらしく、生活スタイルだけでなく不動産ビジネスという側面でも興味深い一面がある。

このNPOは類似のコレクティブハウスをいくつか展開しており、なかでも注目に値するのが「元総社コモンズ」だ。

1階には住居の他にデイサービスセンターと保育園が併設されている。そして2~3階はサービス付き高齢者住宅となっており、4つのビルディングタイプをミックスした実験的な取り組みといえる。

さらに元総社コモンズは、事業主が民間会社でなく群馬県住宅供給公社になっている点も特徴だ。公的機関がバックアップするシェアハウスということで、URの多摩平団地(りえんと多摩平)に近いケースと考えられる。

普及して当たり前になったシェアハウス

2019年現在において、民間会社が運営するシェアハウスは無数にあり、どれもデザインやサービス、賃料相場は似通っているようにみえる。これからシェアハウスを企画運営するなら、上記の例のように変わったコンセプトで売り出さないと目立てないだろう。

さしたる特色のない物件が増えたという意味では、従来のワンルームマンションのようにシェアハウスも市民権を得つつあるのだろう。あとは均質な賃貸住宅の中から、立地と賃料を比べて条件が合うのを選ぶというだけのゲームになる。

おもしろみはないが、ポジティブに考えればシェアハウスも無難になったということだ。新しいサービスが大衆に受け入れて普及する過程には、ちょっとした寂しさも含まれている。

大人のためのシェアハウス案内

大人のためのシェアハウス案内

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