日本シェアハウス協会『これからのシェアハウスビジネス』レビュー

2014年に発行されたシェアハウスへの投資や運営について書かれた本、『これからのシェアハウスビジネス』をレビュー。建築家や利用者サイドではなく、不動産ビジネスとしてのシェアハウス業界について論じた貴重な情報源といえる。

本書は日本シェアハウス協会という一般社団法人を中心として、理事を務めるシェアプロデュース株式会社、東京シェアハウス合同会社の代表の方が主に執筆している。著者となっている社会デザイン研究者の三浦展氏が書いているのは、最後のまとめ的な章だけのようだ。

不動産ビジネスとしてのシェアハウス

スーツ姿のおじさんたちが手を握っている写真がたくさん出てくる。協会の基本方針がそのまま掲載されていて、全体的に宣伝色が強い。

図表もプレゼン用のパワーポイントをそのまま載せているようなものばかりで、字が小さく読みにくい。手間をかけずローコストにつくられた本という感じで、エディトリアルデザインとしては不親切な点が目立つ。

物件の写真が何度も「ハイセンスな○○」と紹介されているのは、ボキャブラリーの古さを想像させる。建築家やジャーナリストが書いた本に比べると、ここに出てくるシェアハウスのデザインは、決してカッコよくはない。

しかしながら、業界の動向や統計資料、事業者側からの分析としては有益な資料だ。かなりの数の物件を実際に手掛けてきた執筆陣ということもあり、レポートに臨場感もある。

昨年話題になった「かぼちゃの馬車」事件も、実はシェアハウスの住民ではなく、投資家と運営会社との間のサブリースに関するトラブルだった。実際のところシェアハウスと聞いて興味を持つ人の一部は、不動産経営に関心の高いサラリーマン大家だったりするのだろう。

常識的なバランスを保つために、一見下世話に思われるようなビジネス書のたぐいも読んでおいて損はない。シェアハウス業界について多面的な見方ができるようになる。

シェアハウス勃興期における事業戦略

本書は発行された2014年時点において、「シェアハウスは成長産業」と言い切っている。居住者のニーズがあり、運営に手間はかかるがその分、管理会社としては手数料を多くとれる。

一般の賃貸住宅に比べて、空室率も低く高収益。その結果、事業者にも投資家にも金銭的メリットをもたらす新サービスと考えられている。

市場としてうまみがある理由として、大手のハウスメーカーや賃貸事業者に運営のノウハウがなく、参入障壁が高い点が挙げられている。大手が手掛ける賃貸物件はすでに高収益事業であるため、あえて業界に参入するメリットがないと言われている。

いずれ普及してマーケットが広がれば、多くのデベロッパーがシェアハウスを手掛けるようになるだろう。それまでの黎明期には、ベンチャービジネスとして中小企業が活躍できる余地が残されている。ここまでは一般論と考えられる。

シェアハウスの社会的役割

シンプルに事業的としてのメリットを主張しながらも、本書で強調されているのはシェアハウスの社会的意義だ。

住人は隣人とコミュニケーションするのが好きで、よく飲み食いするため消費が増える。その結果、地域の商店に恩恵をもたらし町おこし的な役割も期待できると述べられている。また、シェアハウスの共同生活で若い男女が出会うことにより、未婚率の増加を防ぎ少子化対策にも役立つと言われている。

社会学の見地からすると、人は一緒に住んだからといって勝手に交流するわけではない。このあたりの主張は考えが浅いというか、いかにも会社のパンフレットのような歯の浮いた宣伝文句という印象を受ける。

しかし実際に統計を取ってみなければ結果はわからない。もしかすると地域にシェアハウスができた方が、経済活性化して税収が増えるかもしれないし、単身者用のマンションが建つよりも、地域の結婚率・出生率は上がる可能性もある。

シェアハウスの新規アイデア集

著者たちはすでにシェアハウスを多数運営している実績があり、具体的なテクニックには説得力を感じさせる部分が多い。例えば「入居者数が一定以上なら女性限定にしない方が、異姓の目を気にするので清潔さが保たれる」というのは、実際の経験から得られたノウハウなのだろう。

既存の住宅やマンションをシェアハウスに転用するため、民間が自主的に耐震補強を行う。それによって震災が起こっても全半壊する住宅が減り、見舞金や仮設住宅の必要性がなくなり国や行政の負担も減らせるとうたわれている。これも確かにシェアハウス事業の持つ公共的メリットといえる。

これからの企画として、多世代型や介護予防健康増進型、婚活応援型に子育て支援型などのコンセプトも多く提案されている。誰もが普通に思いつきそうなアイデアをまとめた感じだが、一部は実際に試して運用を始めているスピード感がすごい。

震災被災地復興応援型として挙げられている計画では、具体的な図面まで掲載されている。2階にホテルゾーンとシェアハウスゾーンを分離し、1階に高齢者と共用スペースを設けたプランは単純明快で合理的。建築設計として斬新なところはないが、素直に使いやすそうな間取りだと感じた。

アトリエ系の建築家がデザインする集合住宅やシェアハウスは、ユニークな空間構成で「新しい住まい方」を連想させるおもしろさがある。しかし実際に普及して大多数の人が住むことになるのは、こうした分かりやすくて作りやすい間取りの建物なのだろう。

シェアハウスでワークシェア

本書で紹介されているビジネスアイデアのなかで、「ワークシェアシステム」というのが興味深い。

シェアハウスの住民が自らクリーニングしたり、近隣住居の家事代行を請け負うことで収入を得るという仕組みだ。ハウス内で仕事や雇用を生み出すだけでなく、地域社会との接点も作り出せるのという点が新しい。

実際にシェアハウスに住んでいる立場で考えると、コミュニティーはハウス内で閉じていて、地域との交流はほとんど行われていない。災害時の協力体制などを考えると、本来は町内の住民と付き合いがあった方がいいのだろう。

単身者向けの賃貸マンションでは無理だが、シェアハウスならイベントなどをきっかけに施設を地域に開ける可能性がある。そうした意味で、著者たちがシェアハウスの社会的使命のようなものをアピールしているのは、あながち間違いではないように思う。

これからのシェアハウスビジネス

これからのシェアハウスビジネス

三浦 展, 日本シェアハウス協会
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