日本女子大篠原聡子研究室の『シェアハウス図鑑』レビュー

シェアハウスに関する本を調べていて、2017年と比較的最近発行された『シェアハウス図鑑』を読んでみた。

2012年頃ブームの際に出版された類書に比べると、大学の研究らしく各物件の特徴が緻密にリサーチされている。対象は多くても10数名程度の小規模なシェアハウス。その代りこれまでメディアに出てこなかったユニークな物件ばかり取り上げられている。

リノベーションの具体例や各部の仕上げについて、詳細図面を交えて詳しく紹介されている。また、地域との連携方法や間取りのパターンなど、シェアハウス間の共通要素に関する分析も豊富。

巻末に法規関連のQ&Aも収録されているので、これからシェアハウスの設計・運営に関わる人には参考になると思う。どちらかというとシェアハウスに「住みたい人」よりも、「作りたい人」のために書かれた専門書だ。

調査対象は小規模シェアハウス

本書は日本女子大の篠原聡子研究室による、シェアハウスの調査事例レポート。まさにタイトルの「図鑑」という表現がぴったりで、掲載物件の賃料・設備・面積などが事細かに記されている。

日本女子大の家政学部住居学科といえば、林雅子や妹島和代といった著名な女性建築家を輩出したところとして有名。本書の作り方にも、女子大らしい真面目で几帳面な仕事ぶりがうかがえる。

ここで取り上げられているのは、戸数10数軒以下の小規模な物件が中心だ。冒頭のエッセイでも述べられているとおり、大規模シェアハウスでは法規や運営会社の都合により表現が画一化されてしまうのだろう。

「100人超が住む共同住宅のコミュニティー」などもおもしろい研究対象だと思うが、本書からは除外されている。昨今のブームで、シェアハウスと呼べる賃貸住宅は全国に数千件以上存在するだろう。それらを分類して類型化する総合的な研究というのは、本研究の主眼でない。

調査対象を小規模シェアハウスに絞ったことにより、オーナー・設計者・居住者の趣味が反映されたユニークな建築が集められている。建築家が好みそうな有名事例として、「LT城西」や「かんかん森」は序文でさらっと触れられている程度。日本全国からよく探してきたなぁ、という変わった作品ばかり出てくる。

掲載物件の特徴まとめ

紹介されている作品の場所と見どころを簡単にまとめてみた。

  1. SHAREyaraicho(東京都)…篠原研が設計を手がけた都心の新築シェアハウス。入ってすぐの共用スペース、土間エントランスが吹抜けになっていて開放的。
  2. 不動前ハウス(東京都)…目黒近くの倉庫リノベーション。2階の個室のまわりが回廊になっているプランニングは独特。
  3. 鈴木文化シェアハウス(兵庫県)…神戸芸術工科大の木賃アパート改修。2階建て片廊下式の典型的木造賃貸アパートを、1階数部屋ぶち抜いて共用スペースに転用している。他にも適用できそうな、汎用性のあるケース。
  4. シェアフラット馬場川(群馬県)…アーケード商店街の2~3階空き家をシェアハウスに改造。2階の共用部が全面ガラス窓で商店街に開かれている。立地場所自体がユニーク。
  5. 京だんらん嶋原(京都)…京町家リノベーションのお手本的な事例。2階の個室はお茶屋時代の部屋割りをそのまま生かしている。
  6. SHARED HOUSE 八十八夜(宮城県)…石巻市にある震災復興関連のシェアハウス。こちらも商店街の上階空きスペースを共同住宅に転用。
  7. KAMAGAWA LIVING(栃木県)…ビジネスホテルをシェアハウスに改装した例。元の大浴場がリビングになっていてインパクト大。元ホテルなので上層階の個室レイアウトも無理がない。
  8. haus 1952(栃木県)…上記、釜川リビングと同じ設計者による宇都宮の戸建て改修。共用部に元の仏間があり、2階がショップ(着物店)で和モダンなインテリア。
  9. 茶山ゴコ(福岡県)…ごく普通の住宅を1階シェアハウス、2階事務所に改装。駐車場に階段を増設して2階バルコニーに直接アクセスできるのが特徴。
  10. スタイリオウィズ代官山(東京都)…渋谷区の防災職員住宅を、一人親家庭に特化したシェアハウスに改装。子ども向けの遊べるスペースが豊富。
  11. KYODO HOUSE(東京都)…新築住宅で施主がルームメイトと共に暮らす。個室は後に子ども部屋に転用される予定。

実験的リノベーションの事例が豊富

以上11件の国内物件のうち新築は2件に過ぎず、残り9件は既存建築のリノベーション。空き家問題とからめて、シェアハウスは借り手のいない老朽化した賃貸物件や遊休施設を転用するパターンが大半なようだ。自分がこれまで住んできたシェアハウスも、すべてリノベーションだった。

本書の掲載物件では、オーナーがデザイナーであったり、建築関連や広告代理店の商業である場合が多い。そのため建築家の斬新な設計や、町おこしを目指した実験的取り組みに理解があるという印象を受けた。

もし単なる不動産の投資対象としてシェアハウスをつくるなら、大手の運営会社に任せて無難なデザインで仕上げてもらう方が無難だろう。既存住宅の水回りや間仕切りを動かして、リビング・キッチンを今どきのカフェっぽくおしゃれに仕上げた共同住宅はちまたに溢れている。

そういうステレオタイプな物件を取り上げても、同業者の参考にはなるが、読み物としてはおもしろくはない。ここでは古い木造アパートや商店・倉庫の改修など、チャレンジングな試みに対して「東京R不動産」のような切り口で魅力を見つけようとしている。

住む人を選ぶシェアハウス

なかには個室が狭かったり間仕切りがカーテンしかなかったり、プライバシーの希薄な空間も出てくる。そこは住人の顔が見える少人数制シェアハウスの強みを生かして、お互いに気を使いつつ、絶妙にコントロールしているようだ。

建築が居住者のフィルタリング機能をもっている」と言われているとおり、一見使いにくそうな物件に申し込む人は、それなりの覚悟があるのだろう。オーナーも物件の価値を上げてくれるような人に住んでもらいたいと思うので、入居審査はシビアに行われているように思う。

本書に出てくるような有名物件に住めるということは、それだけでステータスになりそうな気がする。たとえばグッドデザイン賞や建築学会新人賞など受賞した名古屋の「LT城西」は、いつ見ても満室状態が続いている。

図面が詳しくて参考になる

いかにも研究プロジェクトらしく、各物件の図面やパースが丁寧に描き起こされている。篠原研の学生さんたちが手分けして作業したのだろう。

扉絵の線画パースは味わいがあり、図面も1/100スケール以下で緻密に表現されている。どちらも大まかに共用部だけ色が塗られていて、個室とのゾーニングがわかりやすい。

床や天井の仕上げについては、素材の厚みや塗装なども図面に記されている。比べてみると、壁は安い合板でAEPやワックス塗り、既存の構造体は現しという例が多い。素人でも工作可能な部分はオーナーや住人がセルフビルドしたりして、施工になるべくお金をかけない点が共通している。

たとえ合板ばかりで安っぽい見た目でも、椅子だけデザイナーズの有名作品を置いていたりすると空間が引き締まる。似たような改装を手がける際に、本書の図面や写真は参考になりそうだ。

シェアハウス関連の法規

もうひとつ有益なコンテンツといえるのが、巻末に収められた法律関係のQ&A。千葉大の先生が、脱法ハウスにならないためのポイントについて詳しく解説してくれている。

不動産業界では、脱法ハウスを取り締まるため2013年に実施された国交省の「シェアハウス=寄宿舎」規制のことを、「9 ・6ショック」と呼んでいるらしい。これによって健全なシェアハウスも大半が違法状態になってしまい、営業が困難になったという事件だ。

その後、業界の働きかけもあって「100㎡以下の小規模なものは除外」など規制緩和が行われた。しかし規制の範囲外であるルームシェアとシェアハウスの境界があいまいだったり、グレーな部分も多く法的判断が難しい。

ここでは2017年出版時点でのシェアハウスに関わる寄宿舎の規定(一定の廊下幅や準耐火構造の間仕切り壁など)について、わかりやすく表にまとめられている。これから物件のリノベーションや運営に関わるオーナー・事業者にとっては、参考になる資料といえる。

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