映画『天気の子』感想~クオリティーは高いがCMが多すぎて引く

9月も中旬に入ってから劇場に向かい、やっと『天気の子』を観てきた。作品の解説については他で多くなされているので、個人的に気になったところだけピックアップしてみたい。

公開2か月たっても人気の映画

新海監督の作品を映画館で観るのは初めて。どちらかというとPC上で何度も巻き戻しながら見たい作風なので、劇場まで足を運ぶか迷った。人ごみの中で観賞するのも苦手だ。

わざわざリアルタイムで体験するのは、社会現象やブームを肌で感じたいという動機が大きい。まるで「歴史を目撃する」ような高揚感が味わえるかもしれないと期待してしまう。前作『君の名は。』はうっかりスルーしてしまったので、1年後のレンタル開始まで待つのがもどかしかった。

公開から2か月たった平日の午前中ということもあり、シネコンの大部屋に観客は8人程度。それでも昼の回には行列ができていたので、いまだに相当人気があるようだ。

フィルムしおりの絵柄は…

9/14から非売品のフィルムしおりをもらえるようになったようで、これを集めるためのリピーターが多そうだ。

全部で10種類あり、もらえる確率はランダム。コンプリートするのは至難の業といえる。ソシャゲのミッション並みに過酷なので、集めるならネットで転売されているものを買った方が早い。

天気の子、フィルムしおり

自分がもらったしおりは須賀のおっさんだった。年齢的には順当といえる。もっと渋めの安井刑事とかでもよかった。

天気の子、フィルムしおり、須賀

劇中に出てくる演出のように、太陽やライトにフィルムをかざさないと絵柄が見えない仕掛けがにくい。本のしおりにするとツルツル滑ってなくしてしまいそうなので、大事にとっておこうと思う。

完成度が高すぎてメリハリがない

映画を見終わって、全体的によい作品だったと思う。時間軸の交錯がなくなった分、ストーリーも『君の名は。』よりわかりやすくなった。途中で銃撃戦やカーチェイスも出てきてハラハラさせる場面もあり、娯楽要素は申し分ない。

オープニングから新海映画で見慣れた新宿の風景が出てくる。代々木のドコモビルなどもうマンネリ気味なので、そろそろ大阪とか福岡とか東京以外の都市を舞台にしてはどうだろう。今回は少しだけ神津島が出ただけで、あとはほとんど東京だった。

映画のテーマが天気ということで、得意の空や雲の描写は山ほど出てくる。エンドロールを見るとCG担当だけでスタッフが50名以上おり、相当な迫力で積乱雲や嵐の空模様が描かれる。東京の街並みなど、森ビルの都市模型のようにほとんどのビルをモデリングしていそうなくらい精密だ。

リアルを超えて劇的すぎる空のアニメーションを見るたび、お腹いっぱいという気分にさせてくれる。そのせいか、ぜいたくな不満ではあるが、すべてのシーンの完成度が高すぎてメリハリがないと感じた。

たとえば『秒速5センチメートル』の第3部タイトルが出るところで、新宿の夜景がここぞとばかりに登場するような感動は味わえなかった。『空の向こう、約束の場所』で最後に塔の頂上にアプローチする場面も同じ。シナリオ上で泣かせどころをつくるには、ある程度の「ため」というか、退屈な前置きも必要なのだろう。

「あなた、大丈夫ですか?」

『天気の子』でもっとも興味を持ったのは、少年少女の生活圏に介入してくる大人たちの存在だ。特にK&Aプランニング代表の須賀圭介という中年男性が、いい役割を果たしている。

「恋愛で暴走する若者たちを見守るおっさん」という立場のキャラが登場するのは、『雲のむこう、約束の場所』の岡部・富澤コンビ以来ではなかろうか。始終おちょくられっぱなしだった刑事の2人も、作品の世界に常識や倫理観をもたらす大事な役を担っている。

映画の終盤で安井刑事と須賀が交わすこの会話は、いちばん印象に残った。

「あなた、大丈夫ですか?」…「いや、あなた今、泣いてますよ」

超高齢社会の日本において、この映画を見ている観客の平均年齢は30歳以上かもしれない。このセリフは後ろめたさを感じながら話題のアニメ映画を観に来てしまった、中年男女に向けられているように思えてならない。

しかしながら「愛にできることはまだあるかい」と何度言われても、いまいちピンとこなかった。『君の名は。』に引き続き、ボーカル入りの歌謡曲を使ったこれ見よがしな盛り上げ方がクサ過ぎて、一歩引いてしまう。

似たようなミュージカル映画でも『アナと雪の女王』は泣けてしまうので、曲の好みもあるのだろう。最近のPV的なアニメ映画のつくり方には、どうもなじめないところがある。

意図的に伏せられた家族構成

『天気の子』は他の作品のように「後でコマ送りしながら分析したい」というほどの興味は覚えなかった。「ヒロインが世界の命運を握る人柱」というテーマは不変だし、ラストシーンも主人公と再会してハッピーエンドで終わる。

しかし旧作のキャラが脇役で出ていたり、セリフの端々に含まれていた意味とか、気になる要素はいくつかある。主人公の家族構成、なぜ島から出てきたのか、ヒロイン姉弟の父親や生活費など、わからないことだらけだ。親がいない理由も、病死や事故死が多すぎて不自然に感じる。

帆高が陽菜を探して警察署から逃亡する場面で、代々木の廃ビルになぜ須賀や凪がタイミングよく集合できたのかわからない。あそこで主人公が序盤で捨てた銃を拾うというのは、うまい設定だった。しかし他の演出はいろいろ都合が良すぎる。夏美がバイクで助けに来るシーンも同じ。

ヒロインが晴れ女になる経緯からしてファンタジー作品であり、細かいところは詮索すべきでない気もする。しかし映画を一度見ただけでは、どうにも腑に落ちない部分が多い。そこは小説版を読んで納得しろということなのだろうか。

小説・マンガのメディアミックス

これはマンガや小説版を買って読むことで、徐々にストーリーが補完されていくというオタク向け抱き合わせ商法なのだと思う。

元ネタの多い『レディ・プレイヤー1』のように、研究しがいがあるとはいえる。しかし、それらの二次資料を網羅するほど暇はなく、そんな時間があれば他の名作映画を見たい。

小説 天気の子 (角川文庫)

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『天気の子』に関しては、今のところ映画本体の理解度だけで十分。適当にネタバレサイトでも眺めれば満足できる。ほかの新海監督作品と比べても、多大な時間を費やして分析したいというほどではなかった。

東京水没そして日本沈没

新海監督と同世代のファンにとって楽しみなのは、毎回出てくるSF的要素だ。初期作品の『ほしのこえ』からして、監督のルーツがSFアニメであることは明らか。『君の名は。』のシナリオでも個人的にグッとくるのは、時間軸の異なる並行世界ネタだった。

『天気の子』はどちらかというと『星を追う子ども』に似たファンタジー作品といえる。それでも終盤で東京が水没するシーンが出てきて、『アキラ』や『真・女神転生』を連想した人は多いはず。

異常気象によって、東京には相当な経済的損失が生じたと思う。しかしゆっくり3年かけて災害が進行したので、水上交通が発達したり、雨でも花見を楽しみにしたり、住民はわりとポジティブに適応できている。

カタストロフィー以降にたくましく暮らす人々の生活を描くのは、災害系SFの醍醐味。水没した東京が舞台のラストシーンは、『日本沈没 第二部』のようなすがすがしさがあった。

作中の企業CMが多すぎる

映画の中におびただしい数のスポンサー製品が登場するのも『天気の子』の特徴といえる。主人公の使うほとんどの小道具に、プロダクトプレイスメントの技法が使われている。

お酒やインスタント食品が出てくるのは自然な流れだが、サントリーや日清という企業名が大写しになるカットが多すぎる。普通に見ていても明らかにCMと気づく演出なので、ちょっと引いてしまう。

Z会や大成建設のアニメのように、最初から広告目的とわかっているなら別に違和感はない。しかし映画館で観る作品としてここまでCMが目白押しだと、せめて鑑賞料金を下げてほしいと思う。

今はもう映画の中にあからさまなCMタイムを挟まないと、やっていけない時代なのだろうか。エンタメはともかく、芸術作品でもスポンサーやパトロンという存在は常に必要とされる。作品の中でクライアントに媚びる演出が出てきても、それ自体は悪いことだと思わない。

バニラのトラックはやばい

ただし、あまりに広告があからさますぎたり、出てくる頻度が多いと、うんざりしてしまう観客がいるのも事実。怪しげな求人情報サイトのバニラカーが出たときは、さすがにやりすぎだと思った。

最低貧困層におちいった少年少女の境遇を表現する方法としては、非常にリアルである。あんなにジャンクフードばかり食べ続けていたら、大人になってから体を壊すに違いない。新海作品に毎回出てくる新宿の歌舞伎町界隈。ダークサイドに踏み込んだ新境地ではあるが、実在する企業やサービスが出てくると生々しすぎてやばい。

監督が意図したことではないかもしれないが、結果的に作品の格みたいなものが下がってしまっている。むしろやけくそ気味にCMを詰め込んだ感すらある。アカデミー賞とかに出品するときは、さすがにえげつない商業的シーンはカットするのだろうか。

セカイ系に飽きた

映画館で『天気の子』を見に行く途中、『ハロー・ワールド』という次に公開されるアニメ映画の宣伝を目にした。キャッチコピーで「物語」と書いて「セカイ」とルビを振っているあたり、明らかにそっち系であることを売りにした作品だ。

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上映前に予告編も流れたが、内容はだいたい察しがつく。後日見た電車の中吊り広告によると、ナカバヤシのロジカルノートとタイアップしている様子だった。

「企業広告もりもりのセカイ系アニメ映画」という流行には、ちょっと飽きてきている。ちゃんと見れば中身はそれぞれ違うのだろう。しかし最近のアニメ作品は、特定のジャンルが成功して確立されると、あからさまな模倣が増えすぎる傾向がある。

SF的な仕掛けはきらいでないので、せめて青春ラブストーリーでない中年向けドラマとか出てこないだろうか。おっさん的に新海監督に期待したい次回作は、やはり『秒速5センチメートル』の続編だ。